十歳の夏休み

絶 不 調




 リンさんリンさん! 無茶しないで寝てて!
 リンの脳裏には、二時間ほど前の妹分のセリフがぐるぐる回っていた。一緒に目の前もぐるぐる回っていた。
さすがにヤベーかも。
 声に出すのも億劫で、水桶を床に置き壁にもたれてふぅと息をはいただけなのだが。
 のろのろと額に手をやれば、わかってはいるがかなり熱い。
 センが「休んで! 寝てて!」と喚いた頃は、こんなに熱が高かったわけではないのだが、仕事に出た途端体調は悪化する一方だった。
 う〜〜、こんな状態じゃぁ、アイツに心配かけさせるだけじゃんか!
 センがちょっとでも具合が悪そうにしていたら「寝てろ」の一言で布団に縛りつけているから、余計にバツが悪い。
 動きたくねぇ。って言うか、この壁から動けるかオレ?
 自問しても答えは出てきそうになかった。
 しかたがない、いちにのさんで仕事場に戻るぞ! と決心を固めた瞬間、
「リン、どうしたのだ?」
 と声がかかって、そのタイミングを見事に逃したリンであった。
 ぼやんとした視界に、かろうじて『イヤなヤツの顔』を見つけてしまって、気分はますます悪化した。
「みりゃわかるだろ、仕事してんだよ」
「そうではなくて……そなた、顔色がずいぶん悪いが」
 ふん、んなこと言われなくても知ってるさ! とは、ハクの前では言いたくなかった。なぜか負けるような気がしたからだ。顔を見ているのもイヤになって、リンは目を閉じる。
「この顔色は生まれつきだよ!」
 あーうー気分悪いのになに言ってるんだろうオレ? さっさとオレのことなんて捨ててどっかいっちまってくれないかなぁ?
 そう思っていると、額にひんやりとした感触がした。びっくりして目をあけると、ハクがリンの額に手をあてていた。
 なにコイツ、センにしかやらなそうなこと、なんでオレにしてるわけ?
 そう思うよりも先に『気持ち悪いことすな!』と思ったのだが、なぜかそれは口からぽろりと出てしまっていたらしい。
 ハクが目の前で苦々しく笑い、
「そなたはセンの側にいるから。少々情がうつったらしい」
 なんぞと言ったので。
 リンはいろいろな意味で頭がくらりとした。


 それからリンはハクの命令で仕事を休まされ、『看病』の仕事を任じられてセンも大部屋にもどってきた。
 リンがセンに怒られ、ここぞとばかりに甲斐甲斐しく看病されたのは、語るまでもない。