ぽけ……
そんな表現が似合いそうにくつろぎきった表情で、森の柔らかな下草に四肢を伸ばして寝転んでいる少女がひとり。
とろんと半分おりかけた瞼の奥に、そこだけ開けた木々の間から見える高い空がぼんやりぼやりとうつっている。
子供らしいぷくぷくした指先に黒い蛇が頭を摺り寄せているのに気がつきながらも、少女は警戒をする事も無くひとつあくびをした。
眠い。
良い天気だもの、眠い。寝たい。寝ちゃだめだけど――眠い。
体の半分はすでに眠りの底に落ちかけているが、頭の半分は寝ちゃダメだと暴れ様としている。
けれども……この穏やかなぽかぽか陽気にこの蒼い空。最近はずっと雨ばかりで家の中にいて、草がようやく乾いたのだ。ここで寝なくていつ寝るのだ、と屁理屈をこねる。そしてとうとう開き直って、瞼を全部閉じてしまった。
聞こえるのは規則正しい少女の寝息。黒い蛇も傍らにとぐろを巻き、くつろいでしまう。
空は蒼く高い。白い雲がひとつ浮かんでいるだけ。少女は眠り続ける。
そよりと吹く風が、光があたれば濃い群青に輝く短い髪を乱した。
高く昇っていた太陽がやや傾きだした頃、少女はそれまでの安心しきった状態が嘘の様に警戒を面に昇らせ、突如跳ね起きた。
「誰ッ!」
先の無邪気な少女と同一人物とは思えないほどに鋭い誰何のその声に、彼女を目覚めさせてしまった者は、その歩みをひたと止めた。
「――獣?」
起き抜けながら、はっきりした視界と頭でそう理解した。紛れもなく目の前にいるのは獣……しかも、長い銀の毛に足元まで覆われた、犬に似て非なる獣である。耳の付根からは金色の短い角が突き出、滑らかな光沢を放つ銀の流れの裾は茜。
瞳は紫。その柔らかな瞳で、獣は少女をただ見つめていた。
不思議そうに傾げる長い首。その動きに添って、しゃらしゃらと毛の流れの音さえ聞こえそうなほど綺麗な獣であった。
それが、少女と獣の出会い。