胸の奥にある、輝ける言葉。
それは私の中心で光を放つ小さな星。
◆◇◆
濃いオレンジ色した太陽が、ゆっくりと西の丘に消えていく。
夕刻を知らせる鐘の音が、澄んだ大気を震わせていく。
東からはゆったりと、夜が忍び寄っていた。
そんな光景を高い塔のテラスからひとり眺めやるのは、この国の王女にして国王代理。
トッペンカムデンの緑の森がたくさんの色に染め上げられる、彼女のとても好きな時間が静かに流れていた。
この風景を、いついつまでも残していきたい。
民の笑顔が絶えることのない国にしたい。
その為には、信用されたい。信用するに足る人物になりたい。りっぱな王になりたい。
願うだけではどうにもならないこと。でも、はじめに願わなければ、どうにもならないこと。力不足を嘆いた後に、一歩を踏み出すきっかけになること。
けれども、どんなに前を向いて歩いていても唐突に不安になる瞬間は、ある。努力が足りない。自分が信じたものが真実正しいかわからない。自分がいることの弊害を無意識にさがしてしまう。
ローラ姫は、冷ややかな石組みの手すりに置いた右手をきゅっと握りしめる。
そんな時に、胸の奥からそっと取り出す言葉がある。
『けして自分を見下すな』
『おまえはきっと必要とされる人間になる』
今はそばにいない、背の高い魔法使いの言葉。
他の誰が自分のすべてを信じてくれていなくても、彼だけは理解してくれていると思わずにいられないその言葉に、どれだけ救われたかきっと彼は知らないに違いない、とローラ姫は柔らかな笑みを浮かべる。
彼の期待は裏切れない。胸にこの言葉を掲げ続ける為にも、私は自身を信じなければならない。
この言葉は、どんな宝石よりも私を飾り、どんな責務よりも衆望よりも私を厳しく律する。
国王代理はかぶりをふり、迷いを振り切った。
いつのまにか、空は濃い藍色。
ローラ姫は後ろを振り返ることもなく、みなが待つ階下へと下って行くのだった。 |