「………ゴホッ……ゴホッ………ケホン!」
千尋がいやな咳を繰り返す。
そんな千尋の背中を私は優しく擦ってやる。
「大丈夫?千尋…。」
迂闊だった…。
熱帯魚というものは寒さに弱いということを忘れていた。
水を与えてやる事はできても、気温まではどうにもできない。
千尋と出会ったあの冬はまだ冬の初めであったし、暖かい方だったためにこれ程酷くはなかった。
とにかく今年の冬はかなり厳しいものになっている。
そのせいか、千尋の状態があまり良いものではない。
「………さ……む………い………」
そう言う千尋の体は誰が見ても分かるほど、震えている。
………どうするべきだろうか…。
ふと、私はある考えを思いつく。
だが、これは少々……
「……は……う…………ケホッ……」
…決めた。
これでいこう。
私は意を決して上着に手をかけた。
「…………コ………………ク………?」
千尋が涙を溜めた瞳をこちらに向けている。
その視線に構わず、私は上に着ている衣服を全て脱ぎ、千尋が寝ている布団に入る。
「冷えている体を温めるには人肌が一番いいと言うだろう?」
そう言って彼女の体を自分の方に引き寄せて自分の腕の中に収めた。
『冷えている体を温めるには人肌が一番いいと言うだろう?』
「コ………ハ……クがっ…………寒……い……で…………しょ……」
「私なら大丈夫だから。」
「っ……ふ………うっ………」
「ほら。余計な心配するから…」
そう言ってコハクは私を抱く腕に力を込めてくれる。
そんなコハクの優しさに私は素直に甘える事にした。
悪い…と思いつつも、具合が悪いときはどうしても誰かに甘えたくなってしまう…。
「ゴホ、ゴホ、ゴホッ!!」
……咳が止まらない。
苦しい。
「……コハ……ク…」
私はコハクの胸に体を摺り寄せる。
「大丈夫…?」
そう言いながら背中を優しく擦ってくれるコハク。
その手の温もりが妙に愛しく感じられた。
……その時だった。
ゾクリ!!
今までにない程の悪寒を感じる。
「……………っ!!?」
「千尋?」
…これ………この異常なほどの寒気………もしかして…!
きっと間違いないと思う。
寒さに敏感な熱帯魚の私だから……。
「コ………ハクっ!………い……ま………今…油屋内………にい……る……お客……様……に………す……ぐ………帰っ……て………もらって…………!!」
「え?…何故…」
「………もう………す……ぐ………吹雪……に……な……る………!……早く……しないと……帰れ………な……く………なっちゃ…………!………っ………っ……!!」
「千尋!?…千尋!」
「……はぁっ………はぁっ…………コハクっ!………早くっ!!」
「…わかった。私がいない間、リンに来てもらうようにするから。」
コハクの言葉に私は小さく頷く。
それを確認したコハクが私から離れて身支度を始めた。
その光景を眺めている間に自分の意識がだんだん朦朧としてくる。
「………………コ……………ハ…………………ク………………………」
「千尋……!!」
コハクのその声を聞いて、私は意識を手放した。
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