そして、二人の魔法使いは長いこと黙ったままだった。
長い長い沈黙の後、少し落ち着いた声でパナカナが言った。
「・・・仕方ねえから、見といてやるよ」
「あ?」
何を言われたのか分からず、レジーは不可解そうな顔をした。
また少しいらついた声でパナカナは続けた。
「お前の運命を見届けるって言っただろ。あの島で! お前の側で見といてやるよ!お前のバカな運命をな!!」
驚きと喜びと困惑と感謝がない交ぜになった顔を、レジーは少し赤くしたように見えた。
ちょうどその時、西に傾いた日が金色の光を二人に投げかけた。
ふと、夕日に目をやったレジーはしばし視線を止めた。その瞳は少し哀しげで愛しげだった。
「おまえのお姫さんの瞳の色だな」
レジーの気持ちが分かったような気がしてパナカナは言った。
「ああ」
美しく、強く、気高く、皆に金色の光を等しく与える、愛しい瞳。
それは直視できないほどに、大きく、まぶしく、美しい。
辛いほどに彼女に似ているとレジーは思った。
「太陽は皆のものだけどよ、お姫さんが誰のものになるかはお姫さんが決めることだろ?」
レジーの心を見透かしたようにパナカナはつぶやいた。
「・・・だが」
「『彼女がどう生きるかは彼女が選択すべきこと』、なんだろ?」
「パナカナ。それは・・・」
「お前が俺に言った言葉だ。覚えてるだろ」
レジーは少し考え込んで、低い声で言った。
「俺が・・・俺の傲慢(エゴ)を彼女に押し付けていると?」
「それは俺には分からねえ。だが、自分の傷をお前が引き受けたと知ったら、お姫さんはどう思う?」
「・・・」
「分かっているから、何も言えねぇんだろ。自分の気持ちもよ」
「・・・」
恐らくは正論の前に、苦しそうな表情のレジーを見て、パナカナは少し気の毒になった。
「俺は・・・お前の言葉のおかげで本心をノーチェに言えた」
少し優しく、そしてゆっくりとパナカナはレジーに言った。
「俺たちも問題はこれからだ。分かってる。けどお互いの気持ちが分かっているからな。少し楽だ」
「だが、ローラは・・・」
言いかけて、レジーは止めた。何を言っていいのか、分からなかった。
何が正しいのか、何が彼女の幸せにつながるのか。
彼自身が何を求めているのか、それすらも、今の彼には、分からなくなっていた。
そんなレジーを見て、パナカナは尋ねた。
「ところで、お前、夕方の空の色ってどんな色だか知ってるか?」
「そのつもりだが・・・、夕日に染まった金色ではないのか?」
唐突な質問に面食らいながら、西の空を見上げて、レジーは答えた。
「光の届くところはそうだな。けど、光の届かないところに見える空、太陽を後ろで支えている空の色はどこかの大バカヤロウの瞳にそっくりな色をしているぜ」
「!・・・」
「そうやって後ろで支えている者がいるから、太陽も美しく輝いてるんじゃないのか?」
そう言いつつ、ああガラにもねぇ!とパナカナはくるりと後ろを向いてしまった。
レジーは・・・何も言えなかった。
自分以上にぶっきらぼうな、不器用な、粗野な、目の前の魔法使いが、それこそ不器用ながらも懸命に自分を励ましてくれていることがとても不思議で、そして口に表せないほど嬉しかった。
黙ったままのレジーの気持ちを察したかのように、後ろを向いたままのパナカナが言った。
「・・・そろそろ帰ろうぜ。日が暮れちまう。」
「ああ。」
「お前の傷の手当てもしなくちゃな。」
「・・・パナカナ」
「ん?」
「・・・ありがとう」
夕日の中に、長身の魔法使いが一人、・・・そしてくだらんことを言うなと騒ぐ彼の「友」が一人、長い影を描いていた。
二人が去り、金色の光が最後の矢を投げた後には、
穏やかな深い蒼の空が静かに暮れてゆき、
やがて夜の黒衣がとばりを降ろした。
眠りについた太陽を守るように。
「黄昏」 Fin
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